スマートホーム製品は、生活のさまざまなシーンで利便性と快適性をあたえてくれるIoT製品です。
ただし、メーカーごとに規格が違うため、規格の異なる製品を簡単にはつなげられない問題がありました。
その問題を解決するために登場したのが、スマートホーム標準規格「Matter(マター)」です。
Matter対応製品であれば、スマートホーム製品同士をシンプルかつシームレスに相互連携できるため、住宅のスマートホーム化もシンプルに進められるようになるでしょう。
しかし、そうなると今までの製品で利用していた規格はどうなるのか、Matterに対応していない製品は今後も使えるのか気になりますよね。
そこで本記事では、Matterもふくめたスマートホーム製品の代表的なIoT規格について解説します。
さらに、Matterの登場によってこれまでのIoT規格は今後どうなるのか、といった点についても言及していきます。
スマートホーム製品の代表的なIoT規格
Matter登場以前から、スマートホーム製品にはさまざまな規格が使われています。
ここでは、最新規格のMatterもふくめた代表的な6つの規格について解説します。
Bluetooth(ブルートゥース)
Bluetoothは、スマートホーム製品のために作られた規格ではありません。
もともとは、PCの周辺機器やモバイル端末同士を、無線で簡単につなげられるよう生み出された通信技術です。
数メートルから数100メートル程度の近距離において、デバイス同士が2.4GHz帯のバンドで情報をやり取りします。
1994年にスウェーデンのエリクソン社で開発プロジェクトが始まり、1998年5月20日にエリクソン・インテル・IBM・ノキア・東芝の5社でBluetooth SIGを設立。
このとき正式に「Bluetooth」という名称が発表されました。
通信速度は後述のWi-Fiなどと比べると低速ですが、接続・切断を自動で瞬時に切り替えられるシンプルな接続方式が特徴です。
そのため、さまざまなデバイス間の無線通信で一般的に用いられる規格にまで成長し、スマートホーム製品同士をつなぐ規格としても利用されています。
ちなみにBluetoothの由来は、10世紀のデンマーク王ハーラル1世(ハーラル・ブロタン・ゴームソン)から。
ハーラル1世は、ノルウェーとデンマークを無血交渉によって文化を統合した偉人で、彼の歯には青黒い失活歯(しっかつし)があったことから「青歯王」と呼ばれていました。
そんなハーラル1世の偉業にあやかり、乱立するさまざまな無線通信規格を統合しようという意味もこめて「Bluetooth(青い歯)」と名付けたそうです。
Bluetoothの不思議なマークのロゴも、ルーン文字で「ハーラル(*)・ブロタン(B)」の頭文字を組み合わせたものなんですよ。
Wi-Fi(ワイファイ)
Wi-Fiも、Bluetooth同様に近距離でのデバイス間の無線通信を実現する、Wi-Fi Allianceによって認定された無線LANの規格の1つです。
ただし、Bluetoothと異なり消費電力が多いため、電源を確保しやすいデバイスでなければならないなど、利用は限定的になります。
また、より正確にいうと規格ではなく、国際標準であるIEEE 802.11規格に準拠した無線LANに関する登録商標です。
そのため、同じ規格に準拠した同じ機能の無線通信であっても、Wi-Fi Allianceによって認定されていなければ「Wi-Fi」とは呼ばれません。
Wi-Fiの歴史は意外に古く、その起源をひも解くと1960年代後半にまでさかのぼるといわれています。
ただし、インターネットに接続する無線通信規格という観点なら、IEEE802.11に準拠した規格を「Wi-Fi」と呼ぶことにした1999年がその起源といえるでしょう。
IEEE802.11の登場以降、Wi-Fiは以下のように現在進行形でバージョンアップ中です。
- Wi-Fi 1(802.11b)
- Wi-Fi 2(802.11a)
- Wi-Fi 3(802.11g)
- Wi-Fi 4(802.11n)
- Wi-Fi 5(802.11ac)
- Wi-Fi 6(802.11ax)
- Wi-Fi 7(802.11be)
今や、インターネットに無線で接続する方式としてもっとも普及している規格であることは、いうまでもありません。
家庭内のネットワーク環境はもちろん、公共の場でも有料あるいはフリーのWi-Fiを利用する機会が一般的となりました。
スマートホーム製品の場合は、製品同士の接続にくわえ、リモートで製品をコントロールするための通信手段として活用されています。
Z-Wave(ゼットウェーブ)
Z-Waveは、2001年にデンマークのZensysが開発した、低コストで双方向通信が可能な無線通信規格。
現在はZ-Wave Allianceの登録商標です。
Z-Waveは、低電力かつ長時間運用を必要とするホームオートメーションやエコシステムでの利用を念頭に置いて設計されています。
つまり、今でいうスマートホーム化をターゲットとした無線通信規格です。
2005年にZensys主導で立ち上げた業界団体Z-Wave Allianceによって、仕様策定や認証プログラムが運用されています。
現在では160以上のメンバー企業が、Z-Waveに準じた4,000以上の認定製品を世に送り出しています。
※Z-Waveプレスリリースより
Z-Waveは、屋内での利用を想定して設計されているため、壁などの遮蔽物があっても、自律的に網状のネットワーク(メッシュネットワーク)を構築する仕組みを持っています。
最大通信速度は9.6Kbpsまたは40Kbpsと低速ですが消費電力は少ないため、屋内であれば照明器具やさまざまな電化製品の監視や制御、屋外であれば光や温度あるいは人感などのセンサー制御に向いています。
また、Z-Wave Allianceは相互運用性を検証しているため、対象国向けに作られたZ-wave対応製品同士であれば、メーカーに関係なく確実に連携できます。
Zigbee(シグビー)
Zigbeeは、2002年に設立されたZigbee Allianceによって仕様策定されている無線通信規格です。
Z-Wave同様に、低電力消費かつ低速(20Kbps~250kbps)な無線通信規格で安価なことから、家電の制御や機器同士の電力制御などが行える小型機器の利用に向いています。
また、Zigbee対応機器は機能や役割によって、以下の3つの役割に分類されます。
- Zigbee Coordinator(ZC)
ネットワークの制御、管理をおこなう機器。ネットワーク内に1台のみ。 - Zigbee Router(ZR)
データ中継機能(ルーター)を持つ機器。 - Zigbee End device(ZED)
データ中継機能を持たない末端の機器。
これらの機器同士がメッシュ型あるいはツリー型のネットワークを構成することによって、遮蔽物のある場所への通信を可能にし、一部端末が故障しても迂回して通信できるのです。
このように、ネットワーク上を縦横無尽に飛び交うデータの様子を、ジグ(Zig)ザグに飛び回るミツバチ(Bee)の習性に見立てて「Zigbee」と名付けられました。
Thread(スレッド)
Threadは、Google傘下のNest Labsら7社で設立した団体「Thread Group」が、ホームネットワーク向けに策定した設計した無線通信規格です。
Thread Groupの設立は2014年7月で、その翌年7月にThread1.0が発表されています。
Thread対応機器は、Z-WaveやZigbee同様にメッシュネットワークを形成しますが、通信はインターネットプロトコル(IPv6)を用いる点が異なります。
インターネットプロトコルを利用するため、対応機器がネットワークに参加するプロセスが工夫されていたり、強固なセキュリティ対策が施されたりしているのも特徴のひとつ。
また、Thread対応機器は自分の都合でスリープ状態に切り替え可能なため、長期間の電池駆動にも耐えられます。
ただし、インターネットプロトコルを利用する点をのぞけば、Z-WaveやZigbeeとさほど大きな違いはないのですが、注目すべき点がひとつあります。
それは、Threadがスマートホームの最新標準規格であるMatterの機器間通信規格に選ばれたことです。
つまり、ThreadはMatterに統合される形で今後も存続していくことになります。
Matter(マター)
Matterは、2022年10月4日にバージョン1.0がリリースされた、スマートホーム化のための最新標準規格です。
オープンソースの規格で、さまざまなスマートホーム製品やプラットフォームが、メーカーの垣根を超えて相互に連携できることを目的としています。
そのため、Matterでは以下の4点を重要視しています。
- 消費者が簡単にスマートホーム化を実現できるシンプルさ
- 対応機器同士の相互運用性
- 一貫性かつ応答性の高さ
- 安全な接続できる信頼性
また、通信方式ではEthernet・Wi-Fi・Bluetooth(LE)・Threadを採用し、ネットワークはインターネットプロトコルをベースに構築されます。
そのため、多くのIoT製品やスマートホーム製品にくわえ、クラウドサービスもシームレスに通信できるようになります。
Matter誕生の背景と意味
代表的なIoT規格を、最新のMatterふくめて6つ見てきましたが、どれも同じような特徴を持った規格ばかりに見えたかもしれません。
同じような規格がなぜ乱立し、さまざまに規格がある中で、Matterはなぜ生まれることになったのでしょう。
ここからは、Matter誕生の背景とMatterリリースの意味について解説します。
標準化に向けたIoT規格の競争時代
本記事で紹介した規格を大別すると、Bluetooth・Wi-FiとZ-Wave・Zigbee・Threadに分類できます。
前者はIoTとは関係ないところで生まれた通信規格に対して、後者はIoTでの活用を前提として生まれた規格です。
BluetoothやWi-Fiは、その特徴が幅広い用途でIoT機器に活用できたことから利用され始めた、といったところでしょう。
一方で、Z-Wave・Zigbee・ThreadはIoT機器での活用が目的ですが、これら以外にも以下のようなIoT規格標準化団体が存在していました。
- OIC(Open Interconnect Consortium)
- AllSeen Alliance
- Open Connectivity Foundation(OCF:OICとAllSeen Allianceが合併)
それぞれの標準化団体の思惑は、業界でのイニシアティブ争奪戦で勝利することでしょう。
ただし、この規約乱立による競争の激化は、スマートホーム業界の進展にはあまりいい影響をあたえませんでした。
またこのような問題は、通信規格だけではありません。
IoT機器をコントロールする音声アシスタントも、Google・Amazon・Appleの3種類あり、これらには互換性がありません。
互換性のないIoT製品と互換性のないコントローラー。
これらが、スマートホーム化のハードルを上げていたのです。
競争から協調への転換、そしてMatterの誕生
このような状況に終止符を打ったのが、CHIP(Connected Home over IP)というワーキンググループです(2019年12月18日発足)。
これは、Zigbee Allianceがスマートホームデバイスの互換性向上のために、Amazon・Apple・Google・Samsungらと共同して取り組んだプロジェクトです。
※ちなみにZigbee Allianceは、2021年にConnectivity Standards Alliance(CSA)と名前を改称しています。
このプロジェクトは、スマートホーム製品の普及拡大に向けて、以下を実現できる規約の策定に取り組みました。
- IoT規格の乱立に終止符を打つこと
- スマートホーム製品のブランドとメーカーの開発をシンプルにすること
- 消費者向けの製品の互換性や利便性を高めること
競争から協調へ路線を変えたことにくわえ、参画したのがAmazon・Apple・Google・SamsungといったIT企業の巨人たちだったので、規約標準化の流れは一気にCHIPへと流れ始めます。
その結果、Matterが誕生することになったのです。
Matterのロゴの意味とその目指す場所
Matterのロゴは、3つの矢印が中央に向かっているように見えますよね。
これは、収束と接続性の保証を伝えていて、幾何学的な構造でセキュリティと実用性を表現しているそうです。
3つの矢印がバランスよく中心に向かって並んでいる様子は、シームレスに接続可能なMatterの特徴をうまく表現しているのではないでしょうか。
そのMatterが目指す未来は、さまざまなIoT製品がシンプルに相互接続することで、スマートホームを簡単に実現できる社会です。
スマートホーム化された住宅が増えれば、何気なく行っていたルーティン作業の手間が減り、生活に余裕が生まれるようになるでしょう。
また、従来よりもセキュリティレベルの高い住宅を実現可能で、自宅に居ながら医療や介護などのサービスを受けられるようになります。
今までにはなかった付加価値を持った住宅にアップグレードすることで、日々の暮らしの満足度向上が期待できるでしょう。
そういえば、2021年頃に大和ハウスの提唱した「名もなき家事」という言葉がバズりました。
「名もなき家事」は、名前がついていないけど毎日のように必要に迫られる作業のことで、70種類以上存在するといわれています。
たとえば、トイレットペーパーの補充や交換、玄関の靴の片づけ、さらには食事の献立を考えることなどが「名もなき家事」として上位にランクインしていました。
これら「名もなき家事」のすべては難しいかもしれませんが、一部であればスマートホーム化によって減らすことが可能でしょう。
Matter登場でこれまでのIoT規格や製品はどうなる?
プラットフォームの垣根を取り払うMatterが登場したからといって、Z-WaveやZigbeeに対応した製品が使い物にならなくなったり、市場から突然消えてしまったりすることはありません。
とくに、Matterを生み出したCHIPは、Zigbeeの仕様を策定していたZigbee Allianceが設立したワーキングブループです。
Matterの仕様には、Zigbeeの仕様や技術も有効に活用されていることでしょう。
また、Z-Waveを始めとしたメッシュ型あるいはリンク型ネットワークを構築する規格の場合、コントローラーとなる端末をMatterに対応できればZ-WaveのネットワークとMatterのネットワーク間での相互接続が可能になります。
そしてMatterの目的は、さまざまな規格を吸収してデバイスの相互接続性を高めることにあります。
BluetoothやThreadがすでにMatterに取り込まれています。
Z-WaveやZigbeeも、次第にMatterの中に溶け込んでいくのが自然の流れかもしれませんね。
Matter同様にリンクジャパンもスマートホームをシンプルにします
本記事では、最新規格のMatterをはじめとして、代表的なIoT規格について解説しました。
Matterの誕生した背景や、Matterが目指す未来についても触れながら、これまで活用されてきたIoT規格たちの今後の動向についても言及してみました。
Matterが目指す先には、スマートホーム化をシンプルに実現できる社会が待っています。
そしてこの社会こそ、当社リンクジャパンが目指している社会でもあります。
当社リンクジャパンでは、メーカーに関係なくリンク可能なスマートホーム統合アプリHomeLinkを提供しています。
HomeLinkは「家のOS(基本ソフト)」であることをコンセプトに、Windowsのような基本ソフトを目指して開発されました。
Matterと同様にメーカーの垣根を超え、家中すべての家電や建具をHomeLinkひとつでつなぎ、スマートホーム化をシンプルに実現します。
現在は、Matterを前提とした開発の方向性を検討中の段階ですが、Matterに遅れることなくスマートな社会の実現に向けて日々取り込んでまいります。
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