電子処方箋はいつから始まる?メリットやデメリットから利用の流れまで詳しく解説

TIPS

今まで病院に行くと紙で渡されていた処方箋が今後は電子化すると聞いたけれど、何か準備しなければならないことはあるのかと戸惑っている人はいませんか?

この記事では電子処方箋はいつから始まるのか、また開始するメリットとデメリットや利用の流れを詳しく解説します。

電子処方箋とは?

若い男性医師がPCに向かって入力作業をしている

電子処方箋とはこれまで紙だった処方箋を電子化したものです。

患者が電子処方箋を選択し、医師・歯科医師・薬剤師が患者のお薬情報を参照するのに同意すると、複数の医療機関や薬局をまたがる過去のお薬情報に基づいた治療を受け、薬を処方してもらえるようになります。

電子処方箋を導入することで、複数の医療機関を利用しても同じ成分の薬や飲み合わせの良くない薬の処方を受けるのを防止できるようになるということです。

電子処方箋はいつから始まる?

処方箋とそれに乗せられた錠剤5つ

電子処方箋は2022年10月末から、全国的な利用開始前に次の4つの地域でモデル事業を実施しました。

  • 山形県酒田地域
  • 福島県須賀川地域
  • 千葉県旭地域
  • 広島県安佐地域

例えば広島県安佐地域では医療機関や薬局が広範囲に点在するという特徴を持ちますが、地元の薬剤師会が中心となり薬局で積極的に電子処方箋のPR活動を行ったのです。

このようなモデル事業で行われた内容を検証し優良事例などを共有した後、2023年1月から準備の整った医療機関や薬局で利用を開始する予定となっています。

また、電子処方箋が開始されたからといって紙の処方箋がなくなるわけではないことも覚えておきましょう。

参考:厚生労働省「電子処方せん(国民向け)」

電子処方箋のメリット

高齢者の男性がビデオ通話で若い男性医師に薬の使い方を教わる様子

電子処方箋を利用するメリットは次の通りです。

  • 同じ成分の薬の処方や飲み合わせの良くない薬の処方を防止できる
  • ポリファーマシーを予防できる
  • 処方された薬をマイナポータル(政府が運営するオンラインサービス)で確認できる
  • オンライン診療を受けた際に郵便やFAXで処方箋をやり取りせずに薬を受け取れる
  • 救急医療が必要な時や災害時に医療関係者が患者の服用している薬が何か確認できる
  • 薬のもらい過ぎが予防できるので国全体の医療費削減につながる
  • 医師と薬剤師が電子処方箋の管理サービスを用いて情報交換できるため連携がスムーズになる

ポリファーマシーとは高齢者が多数の薬を服用することで引き起こされる有害な事象を指しますが、東大病院老年病科における2,412名の入院患者を解析した所、6種類以上の薬を服用している患者では10%以上でポリファーマシーが確認できたのです。

参考:日本老年医学会雑誌56巻4号(2019,10)小島太郎「特集 ポリファーマシー 1.ポリファーマシーの概念と基本的考え方」

電子処方箋のデメリット

ICカードリーダーに差し込まれたマイナンバーカードと南京錠

電子処方箋を利用するデメリットは、患者自身の個人情報であるにも関わらずその管理は医療機関と薬局が行うため、個人情報漏洩のリスクがあることです。

これに対し、国では2022年に、近年のサイバー攻撃の巧妙化やクラウドサービスの普及に伴い、医療情報システムの安全管理に関するガイドラインに対し10回目の改訂を行いました。

また、医療機関などがサイバー攻撃を受けた際には厚生労働省に連絡しなければなりませんが、その連絡先もホームページに公開して注意を促しています。

参考:厚生労働省「電子処方せん(国民向け)」

参考:厚生労働省「医療分野のサイバーセキュリティ対策について」

電子処方箋利用の流れ

マイナンバーカードを左手で持つ

医療機関において電子処方箋を利用する流れは次の通りです。

  1. 顔認証つきのカードリーダーにマイナンバーカードを置く
  2. 顔認証か暗証番号入力で本人確認
  3. 過去のお薬情報を医療機関に提供するかどうかを選択
  4. 処方箋の種類を紙の処方箋か電子処方箋かで選択

健康保険証を受付に提出し、電子処方箋を利用したい旨を伝えても利用できますが、この場合は過去のお薬情報を医師や歯科医師に共有することができません。

また、電子処方箋を選択しても会計時に紙の控えは受け取ることができます。

一方、薬局で電子処方箋を利用する流れは次の通りです。

  1. 本人確認と過去のお薬情報の提供についての流れは医療機関と同様に行う
  2. 対象の処方箋を選択
  3. 薬を受け取り会計を行う

事前準備としてマイナンバーカードを取得していれば、特に難しい手続きは必要ないことがわかります。

電子処方箋の利用の流れは厚生労働省のYouTubeチャンネルでも確認できるため、イメージがわきにくい場合は動画を見ることをおすすめします。

参考:YouTubeチャンネル 厚生労働省「電子処方せんの利用方法について(国民向け)」

電子処方箋の海外での活用事例

地球全体どこにでも駆けつける救急車のイメージ図

株式会社日本総合研究所が2021年3月に発表した「電子処方箋の導入に向けた課題―完全電子化を実現し医療サービスの質向上へ貢献をー」によると、フィンランド、エストニア、スウェーデンなどの北欧諸国では処方箋の電子化が100%に近いのですが、フランスやドイツのように0%に近い国々もあり、海外では電子化が二極化しているのがわかります。

二極化する背景には電子化率が低い状況では薬歴の管理が十分には行えないことと、紙の処方箋が混在する状況では事務手続きが煩雑化することがあると考えられます。

一方2021年11月にREPORT OCEANが発表したレポートによると、世界の電子処方箋市場は2021年から2027年にかけて23.3%以上の成長率で成長すると予想されたのです。

電子処方箋の現状や、日本で今後どのような課題が生じるかを考えるためにも、電子処方箋の海外での活用事例をご紹介します。

エストニアの事例

エストニアでは2010年に電子処方箋の導入が開始されましたが、人口132万人と国の規模が小さいことや医療機関、薬局などの数が限られることを背景に2019年には99.9%の処方箋を電子化するのに成功しました。

エストニアには国民ID制度というマイナンバー制度を作る際に参考にされた制度があり、患者は国民IDカードの電子証明書をIDカードリーダーで読み取ることで本人確認を行い、電子処方箋を受け取ったり薬歴を医療機関に共有できたりします。

導入前の事前準備期間として、政府、医療機関、薬局、ITベンダーなど関係者を巻き込み5年という長い時間がかかりましたが、電子処方箋を導入したことでオンライン診療の利便性も向上した好事例と言えるでしょう。

イギリスの事例

イギリスでは国の規模が大きく、マイナンバー制度のようなインフラも存在しない中、段階的に処方箋の電子化が進められました。

2005年にRelease1という紙の処方箋にバーコードを付与する仕組みができ、まずは紙とバーコード両方から処方情報が取り出せるようになったのですが、使い勝手が良くなくあまり電子化が進まなかったのです。

そのため2009年Release2ができたのですが、これは患者が事前に薬局を指名しておき、医師が電子処方箋サーバーに処方情報を登録すると指名された薬局だけが処方情報を取り出せる仕組みです。

2018年からは薬局を事前に指名しなくてもバーコードのついた紙(トークン)を医療機関から受け取り、それを任意の薬局に持ち込むことで処方が受けられるようになりました。

イギリスの事例はステップを踏んで都度課題を解決し、少しずつ電子化を進めた好事例と言えるでしょう。

アメリカの事例

アメリカでも処方箋の電子化が徐々に進んできていますが、2020年11月にAmazonがオンラインで処方薬が手に入る「Amazon Pharmacy」の営業を開始したのは大きなニュースとなりました。

「Amazon Pharmacy」の利用の流れは次の通りです。

  1. オンライン診療や対面診療で電子処方箋を受け取り、Amazonのサイト上で薬局に申し込む
  2. 患者のニーズや自宅からの距離を基に薬局が紹介され、薬局で電子処方箋を基に薬が調剤されてオンライン服薬指導を受けられる
  3. 調剤された薬はAmazonが配達する

アメリカでは患者が加入する医療保険の種類によって自己負担額や控除額が異なるのですが、Amazon Pharmacyでは患者が登録した医療保険を基に金額の計算もしてくれます。

消費者にとって身近な企業が参入することで、医療のデジタル化がさらに進んだ好事例だと言えるでしょう。

参考:日本総研「電子処方箋の導入に向けた課題―完全電子化を実現し医療サービスの質向上へ貢献をー」

参考:PR Times「世界の電子処方箋市場は2027年まで年平均成長率23.3%で成長する見込み」

日本における電子処方箋導入の今後の課題

指で鍵括弧を作った中にあるマイナンバーカード

日本でスムーズに電子処方箋を導入するためには、今後どのような課題を解決していけばよいのでしょうか。

3つご紹介します。

認知度の向上

2022年9月に日経メディカルオンラインが8,782人の医師を対象に行ったアンケート調査で、電子処方箋の運用が2023年1月から開始されることを知っているかたずねた所、知っていると回答した人は28.8%でした。

このことから日本で電子処方箋を普及させるためには、患者だけではなく医療関係者にも周知を積極的に行うことが大切だと言えるでしょう。

参考:日経メディカルオンライン「電子処方箋の1月開始、医師の7割が『知らない』」

マイナンバーカードの普及

総務省が公表しているマイナンバーカードの普及状況のデータによると、2023年1月9日時点での有効申請受付数が人口に対して約66.3%になりました。

また2022年12月末時点での交付枚数は人口に対して57.1%だったのです。

これらのことから、電子処方箋を普及させるためには、本人確認や過去のお薬情報を提供するのに必要なマイナンバーカードの交付を増やすことも重要なのがわかります。

参考:総務省「マイナンバーカード交付状況について」

電子処方箋と連携できるシステム作り

2020年3月に厚生労働省が発表した「日本における医療情報システムの標準化に係わる実態調査研究業務等の報告書」で671の病院、402の診療所、403の歯科診療所を対象にアンケートを行った所、医事会計システムや電子カルテシステムの導入率が病院では95.7%、診療所では86.1%、歯科診療所では64.9%でした。

電子処方箋を効率的に運用するためには、医療機関の中で使用する医事会計システムや電子カルテシステムと連携させるのが望ましいと言えます。

そのため電子処方箋を普及させるには、同時に医事会計システムや電子カルテシステムの普及にも目を向けていく必要があるのです。

参考:厚生労働省「日本における医療情報システムの標準化に係わる実態調査研究業務等の報告書」

まとめ

電子処方箋とはこれまで紙だった処方箋を電子化したものですが、株式会社リンクジャパンは電子処方箋を始めとした医療機関でのIoT活用を少しでもお手伝いできればと考えています。

その第一歩として、2023年1月10日、弊社の配線工事不要スマートナースコール「eBell(イーベル)」を医療法人社団樹徳会佐倉整形外科病院にご導入いただいたことをホームページにてご報告させていただきました。

「eBell(イーベル)」はWi-Fi環境とスマホさえあればビデオ通話が可能となるため、配線工事を必要としません。

また気になる患者さんの様子は動画で確認でき、通話でコミュニケーションを取ることも可能なため医療や介護の現場において省コストで業務効率化を実現できます。

病院のリニューアルに際し、現場でのIoT活用や業務効率化を実現したいなら、ぜひ株式会社リンクジャパンにお問い合わせください。

参考:株式会社リンクジャパン「配線工事不要スマートナースコール『eBell』(イーベル)医療法人社団樹徳会佐倉整形外科病院への導入を報告」