スマートホーム最新共通規格Matter(マター)が2022年10月4日にリリースされて以来、半年ほど経過しました。
リリース前後からさまざまなメーカーがMatter対応製品を発表しているので、世の中のMatterへの関心と期待はより強くなっていることでしょう。
また、当社リンクジャパンの公式ブログはもちろん、さまざまなメディアやサイトでMatterに関する言及が活発になってきました。
ただし、Matter生みの親であるCSA(Connectivity Standards Alliance:旧称: Zigbee Alliance)が公表している以上に、Matterのくわしい情報をあまり見かけません。
期待値の表れとしても、Matterの表面的なメリットばかり強調する内容に留まっている記事が多い印象で、「本当のところ、Matterってどうなの?共通規格として定着できるの?」と懐疑的に捉えてしまう人もいそうです。
そこで本記事では、Matterのより具体的なメリット・デメリットについて解説し、ほかでは語られていないMatterの真相に迫ります。
あらためて「Matter」とは?
あらゆるメディアやサイトですでに言及されていますが、まずは「Matterとは?」について、あらためて確認しておきましょう。
Matter導入の経緯
Matter誕生前は、メーカー毎に利用される通信規格が統一されていませんでした。
そのため、異なるメーカーのIoTデバイス同士がシームレスに連携するのは難しく、利用する側は機能やデザインよりもメーカー重視で選ぶ必要がありました。
欧米を中心にスマートホームの普及が進んではいるものの、メーカー毎にバラバラな通信規格は、普及の阻害要因となっていたのです。
その問題を解決するために誕生したのが「Matter」です。
Matterの特徴
Matterの特徴は、CSAのサイトでも書かれているように以下の4点に集約されます。
特徴 | 説明 |
Simplicity | シンプルさ。消費者は、購入してすぐに使える。 |
Interoperability | 相互運用性。異なるメーカーのIoTデバイス同士をシームレスに連携する。 |
Reliability | 信頼性。インターネットが切断してもローカルで接続できる。 |
Security | 安全性。堅牢なセキュリティのもと、開発者・消費者いずれも安心して利用できる。 |
これらの特徴は、Matterがスマートホーム共通規格であるための基本的な要素ともいえます。
また、MatterはIPv6通信が前提で、Wi-Fi通信とThread通信の両方に対応しています。
得意分野の違う通信方式を扱えることも、特徴のひとつといえるでしょう。
Matterでスマートホームやスマート家電はどう変わる?
Matter登場前までは、通信方式やIoTデバイスはメーカーによって、それぞれ違う色で色分けされていたようなものです。
しかし、Matterがリリースされたことで、メーカー毎に色分けされることなく、通信方式とスマートホーム家電は一色に統一されます。
つまり、消費者や不動産デベロッパーは、スマートホーム家電やIoTデバイスの組み合わせで悩む必要がなくなるというわけです。
その結果、消費者は自宅のスマートホーム化を実現しやすくなり、不動産デベロッパーも付加価値を重視したスマートホームブランドを確立しやすくなるでしょう。
また、ネットワークセキュリティが万全で、インターネットが切断しても持続してIoTデバイスを利用できるなら、スマートホーム家電やIoTデバイスは生活に必要不可欠な存在になりえます。
安全性や信頼性の高さは、スマートホームの魅力をより引き上げることになるのではないでしょうか。
ただし、Matterはまだ生まれたばかり。
あらゆるIoTデバイスが、すぐに対応できるわけでもありません。
以降では、現時点でのMatterのメリットやデメリットについて具体的に見ていくことにします。
Matterのメリット
ここでは、Matter1.0の具体的なメリットについて見ていきましょう。
対応製品ならメーカーに関係なく操作できる
Matter最大の特徴であるメーカーの垣根を超えた相互運用性の高さは、Matter1.0からもちろん実現しています。
Matter対応アプリであれば、メーカーに関係なく操作可能で、たとえばApple Homeアプリへの追加も簡単です。
また、Matter1.0の対象デバイスは以下のとおり。
- コントローラー
- ブリッジ
- スマート電球/器具
- スマートプラグ/スイッチ
- センサー
- サーモスタット
- 空調コントロール
- スマートブラインド/スマートシェード
- コネクテッドロック(電子鍵)
- テレビ
スマートカメラが対象外な点は気になるものの、IoTデバイスのほとんどのカテゴリーが含まれています。
Apple、Amazon、Google各社のスマートスピーカーで音声操作できる
Matterを生み出した団体CSAにApple・Amazon・Googleが参加しているため、一般消費者に広く普及している各社のスマートスピーカーは、もちろんMatter対応です。
3社の最新スマートスピーカーであれば、Wi-Fi通信にくわえThread通信可能なハブ機能を備えています。
そのため、スマホでは直接通信できないThread通信方式のMatter対応デバイスでも、Wi-Fi通信方式のMatter対応製品でも、各社のスマートスピーカーがハブになれば、メーカーに関係なくリモート操作が可能なのです。
ただし以下の表のように、音声操作でも家電によってできること・できないことがある点に留意してください。Matterはまだ発展途上で、過度な期待をしすぎないことが大切です。
音声操作の機能比較 | ||||
---|---|---|---|---|
家電・シーンなど | 操作 | Amazon Alexa |
Google Home |
Matter連携 |
エアコン | ON/OFF | 〇 | 〇 | 〇 ※冷暖房 |
温度操作 | 〇 | 〇 | 〇 | |
風量 | × | 〇 | × | |
風向 | △ | △ | × | |
照明 | ON/OFF | 〇 | 〇 | 〇 |
調色 | 〇 | 〇 | × | |
調光 | 〇 | 〇 | × | |
常夜灯 | 〇 | × | × | |
テレビ | つけて | 〇 | 〇 | 〇 |
チャンネル | 〇 | 〇 | × | |
音量 | 〇 | 〇 | × | |
消音 | 〇 | 〇 | × | |
地上波/CS | 〇 | 〇 | × | |
テレビのビデオ操作 | 再生・停止 | 〇 | × | × |
次動画 | 〇 | × | × | |
シーン | 〇〇をオン | 〇 | 〇 | × |
インターネット切断中でもローカルで操作できる
従来のスマートホーム家電は、インターネット接続が前提だったので、インターネットが利用できなければ利用不可能になるという単純な問題を抱えていました。
しかし、特徴のところでも触れたように、Matterはインターネットが切断されても、ローカルエリアネットワークで動作する仕様になっています。
これは、MatterがWi-Fi通信方式のみならず、メッシュ型トポロジーを形成するThread通信方式に対応しているためです。
※画像はThread Group公式サイトより
メッシュ型トポロジーは、複数のデバイスが互いに通信しながらデータを中継することによって、通信可能な距離を延ばせるうえ、遮蔽物があっても迂回してネットワークがつながるようにできる構造のこと。
そのため、たとえばインターネットが何らかの障害で通信できなくなったとしても、Alexaなどのスマートスピーカーの命令によってMatter対応製品のひとつがルーター代わりになり、他のMatter対応製品までの通信経路を確保できるのです。
セキュリティが強化されている
Matterはインターネット通信を利用するので、ハッキングなどを防止する対策が不可欠です。
ネットワークのセキュリティを確保するため、Matter対応製品はデバイスごとに以下の情報を所有しています。
- デバイス独自の公開鍵と秘密鍵
- デバイス証明書
- Matter仕様に準拠していることを証明するCSA署名入り認証宣言
- デバイス固有のQRコード
これら認証情報を利用する機能を持つことによって、Matter対応製品はセキュリティリスクを低減しているのです。
Matter対応製品のセキュリティを確保する機能
- デバイスの認証
- 接続しているデバイス同士の相互認証
- 安全なプロトコルを利用したデバイス間の安全な通信
- 認証/証明情報の安全な保管
- 安全なファームウェア(デバイスのハードウェアを制御するプログラム)の更新
Matterのデメリット
今後のバージョンアップ等で改善される可能性はありますが、Matterも完璧ではないので、デメリットも当然あります。
ここではMatterのデメリットを、いくつか見ていきましょう。
対応製品でもすべての操作をできないケースがある
Matter対応製品は、そのメーカー製のアプリであればデバイスの全機能を操作可能ですが、Apple・Amazon・Googleなどのサードパーティアプリでは、決まった一部の操作しかできません。
たとえば、エアコンであれば電源・温度・風量・モード調整、照明であれば電源・調光・調色といった標準機能に限定されてしまうのです。
また、サードパーティアプリではリモート操作ができず、宅内からのローカル操作しかできません。
最初のペアリングは注意が必要
Matter対応製品を最初にペアリングする際には、必ず2.4GHzのWi-Fiにつないでおく必要があります。
2.4GHzのWi-Fiにつないでいないと、ペアリングできず、デバイスを利用できません。
ただし、初期設定は簡単です。
製品ごと独自のQRコードをスキャンすれば、パスワード不要でIoTデバイスの追加・セットアップが可能です。
ローカル操作中、スマホは外部と通信できない
メリットのところで触れたように、Matter対応製品であれば、インターネット切断中でもローカルエリアネットワークで操作可能です。
ただし、IoTデバイスを操作するスマホは2.4GHzのWi-Fiに接続していなければなりません。
またこのときスマホは、BLE通信やセルラー回線の通話以外、通信できなくなるのでスマホの通知機能などは一時的に制限がかかって動作しなくなる恐れがあります。
同じ機能の製品でもMatter対応で価格が高くなることも
Matter対応製品は開発期間やコストを抑えられ、設計をシンプルにできる、というメリットをよく見かけます。
しかし、開発費とMatter認証費用が高めで、現時点では同一機能の製品であっても価格が高くなってしまうようです。
メーカーの生産台数や販売戦略によるので、一概にどれぐらいとはいえませんが、Matter対応製品が広く普及するまではこの傾向が続くのかもしれません。
Matterに関するよくある質問
ここでは、Matterに関してよくある質問の回答をまとめてみました。
Matterは何ができる?
Matterに対応したIoTデバイスは、以下のことができるようになります。
- メーカーに関係なくIoTデバイスを相互運用できる
- IoTデバイスごとのQRコードを読み込むだけで初期設定を完了できる
- インターネットを使えない状況でもローカル接続で動作できる
とりわけ相互運用性の高さは、使う側にとって大きなメリットです。
メーカーに縛られることなく機能やデザイン重視でIoTデバイスを選べるので、生活スタイルや作り出したいシチュエーションに合わせ、屋内のレイアウトやコーディネイトが可能になるでしょう。
Matter対応製品や対応家電は?
前述の通り、Matter1.0で対応している製品カテゴリは、スマートホーム家電のほとんどをカバーしています。
Apple(Siri)・Amazon(Alexa)・Google(Assistant)、いずれのスマートスピーカーも最新版はMatterに対応しています。
ただし、スマート電球など、ファームウェアのアップデートのみでMatterに対応できるものもあります。
どの製品がMatterに対応できるかどうかは、各メーカーの公式サイトやプレスリリースを確認、あるいは問い合わせてみるのが無難です。
Matterの規格書を見られるサイトはありますか?
Matter1.0の規格については、CSAの公式サイトからダウンロードできます。
個人名、会社名、メールアドレスを入力し、プライバシーポリシーに同意すれば、だれでも自由に閲覧可能です。
ただし、提供ドキュメントは英語のみで日本語版はありません。
リンクジャパンはMatterのパイロットクライアント
本記事では、スマートホーム共通規格Matterの概要をあらためて確認し、ほかではあまり語られていない具体的なメリットやデメリットについて解説しました。
当社リンクジャパンは、MatterリリースイベントでMatterのパイロットクライアントとして紹介されています。
Matterは発展途上のため過度な期待は避ける必要がありますが、当社では今後の動向に注視するとともに、Matter対応に向けてさまざまな検討を重ねているところです。
Matter関連で進展があれば、ブログもしくは公式サイトにて発表しますので、リンクジャパンの動向についても注目していただけると幸いです。