自分の働く介護の現場でも少しずつICTを活用して効率化を進めたいけれど、具体的に活用するとどうなるのかイメージがわかずなかなか一歩が踏み出せないと悩んでいる人はいませんか?
この記事では介護の現場におけるICTの導入事例から今後の課題まで詳しくご紹介します。
介護におけるICTの導入とは?
ICTとはInformation and Communication Technologyの頭文字を取った言葉で情報通信技術と訳され、通信技術で人と人がつながることを指します。
厚生労働省では次の5つのことを目的に介護におけるICTの導入を推進しています。
- 介護職員が行政に提出する文書などの作成にかける時間を効率化する
- 介護職員の本来の業務である介護サービスに集中できる環境を整える
- 介護の現場での情報をICT化することでビッグデータとしての蓄積が可能となりエビデンス(根拠)に基づいた介護サービスを提供できる
- 介護職員が働きやすい環境を整える
- 多様な人材が介護の現場で働けるようにする
今後も介護の現場ではよりよい介護サービスの提供と効率化を目的に、ICT導入が少しずつ進んでいくでしょう。
介護の仕事をICT化するメリット
介護の仕事をICT化するメリットは次の通りです。
- 介護職員の事務負担の軽減
- 介護職員が行うケアの効率化
- 関連機関とのスムーズな情報連携
- データ活用による介護サービスの質の向上
- 介護報酬の加算
介護の現場をICT化し、介護職員が本来の仕事である介護サービスに集中できる環境を整えることが、利用者のQOL(生活の質)向上につながるでしょう。
介護の現場におけるICT導入の現状
介護の現場におけるICT導入の現状とは、どのようなものなのでしょうか。
活用状況と導入を検討しているICT機器の2つの観点からご紹介します。
ICT機器の活用状況
2021年に公益財団法人介護労働安定センターが発表した「令和3年度介護労働実態調査」で8,742件の介護サービス事業所を対象に、ICT機器の活用状況をたずねてみた所結果は次の通りでした。
ICT機器の活用状況(複数回答) | 割合 |
PCで利用者情報(ケアプラン・介護記録など)を共有している | 52.8% |
記録から介護保険請求システムまで一括している | 42.8% |
タブレット端末などで利用者情報(ケアプラン・介護記録など)を共有している | 28.6% |
グループウェアなどのシステムで事業所内の報告・連絡・相談を行っている | 19.8% |
給与計算、シフト管理、勤怠管理を一元化したシステムを利用している | 18.4% |
情報共有システムを用いて他事業者と連携している | 13.8% |
他の事業所とデータ連携によりケアプランやサービス提供票などをやり取りするためのシステム | 10.4% |
その他 | 0.7% |
いずれも行っていない | 22.0% |
無回答 | 8.4% |
介護のICT化を積極的に進めている事業所がある一方で、「いずれも行っていない」と回答した事業所もまだ22.0%あり、今後どのようにこれらの事業所のICT化を進めていくのかが大きな課題と言えるでしょう。
導入を検討しているICT機器
「令和3年度介護労働実態調査」において8,742件の介護サービス事業所を対象に、導入を検討しているICT機器についてたずねてみた所、次のような結果が出ました。
導入を検討しているICT機器(複数回答) | 割合 |
タブレット端末などで利用者情報(ケアプラン・介護記録など)を共有している | 13.5% |
記録から介護保険請求システムまで一括している | 11.8% |
給与計算、シフト管理、勤怠管理を一元化したシステムを利用している | 11.5% |
他の事業所とデータ連携によりケアプランやサービス提供票などをやり取りするためのシステム | 8.1% |
情報共有システムを用いて他事業者と連携している | 8.0% |
グループウェアなどのシステムで事業所内の報告・連絡・相談を行っている | 7.4% |
PCで利用者情報(ケアプラン・介護記録など)を共有している | 6.1% |
その他 | 0.6% |
無回答 | 72.1% |
導入を検討しているICT機器は利用者情報が共有できるタブレット端末が一番多く、記録や情報共有にあまり時間をかけられない介護の現場の忙しさが伝わる結果となっています。
参考:公益財団法人介護労働安定センター「令和3年度介護労働実態調査結果について」
介護の現場におけるICT導入事例
介護の現場におけるICT導入事例には、どのようなものがあるのでしょうか。
3つご紹介します。
スマートナースコールの導入で地域に根差した医療を実現
2023年1月、医療法人社団樹徳会佐倉整形外科病院ではスマートナースコールの「eBell」を導入しました。
eBellは専用端末が不要で、電源とWi-Fi環境があれば患者さんがすぐに看護スタッフとつながることができます。
またeBellを用いたリモート面会も可能なため、入院生活を送る患者さんをコミュニケーションで家族が支えやすくなるというメリットもあるのです。
佐倉整形外科病院は次の3つの背景から、スマートナースコール「eBell」の導入を決めました。
- 工事不要で病院の業務を止めたり、患者さんへの危険を伴う「ながら工事」を行ったりする必要がないこと
- 患者さんの様子を動画で確認することで業務効率化を図れること
- 「自宅をサービス付き高齢者住宅に」「自宅を病院に」という2つのテーマを掲げ、将来的に地域包括ケアシステムの実現を目指していること
佐倉整形外科病院はeBellの導入をきっかけに、地域に根差した医療の実現を目指します。
この事例を参考にeBellの導入を検討したい方は、次のページもごらんください。
福岡市地域包括ケア情報プラットフォーム
福岡県福岡市では、積極的なビッグデータの活用により「健康寿命の延伸」「地域経済の活性化」「行政コストの削減」を同時に実現するのを目的として「福岡市地域包括ケア情報プラットフォーム」を構築しました。
福岡市地域包括ケア情報プラットフォームは次の4つのシステムから成り立っています。
システムの種類 | 概要 |
データ集約システム | ・分析、共有、提供を実現するためのビッグデータを管理 |
データ分析システム | ・エビデンスに基づく施策の企画、立案を支援 |
在宅連携支援システム | ・医療や介護事業者の負担を軽減しケアサービスの質を向上 |
情報提供システム | ・生活していく上で必要となるサービスや資源を幅広く提供 |
また福岡市地域包括ケア情報プラットフォームの活用により、次の2つの効果がありました。
効果の種類 | 概要 |
定性的効果 | ・ビッグデータの効率的な利用と活用・科学的エビデンスに基づく施策の立案や改善を実現・行政の事務負担軽減・行政によるインフォーマルサービスの把握と提供を実現 |
定量的効果 | ・36億円/年の経済効果・4億円/年の医療費削減 |
これらのことから福岡市地域包括ケア情報プラットフォームは、2016年度にICT地域活性化大賞の奨励賞を受賞しています。
官民が一体となって医療と介護の現場にICTを導入し、積極的に活用することで経済効果や医療費削減といった大きな効果を生み出した好事例と言えるでしょう。
参考:総務省ICT地域活性化ポータル「福岡市地域包括ケア情報プラットフォーム」
次世代医療・介護・健康ICT基盤高度化事業
兵庫県神戸市では、地域の特性を踏まえたPDCAサイクルによる介護予防施策が必要であること、閉じこもり予防など個々の介護予防事業の効果検証が必要であることの2つの課題を持っていたため「PHR ICT地域包括ケアモデル」を構築しました。
導入したPHRシステムと情報連携基盤の概要は次の通りです。
項目 | 概要 |
PHRシステム | ・介護予防事業を実施し、タブレット端末やNFC付活動量計を用いたPHRシステムによって住民の参加記録・活動量・問診情報を取得する |
情報連携基盤 | ・自治体が持つ医療、介護情報や個人の簡易問診データなどを情報連携基盤に統合し、分析結果をもとに要介護リスク、地域資源分布など個人・地域の特性を示す指標を策定する |
PHRシステムと情報連携基盤の導入による効果は次の通りです。
- 介護予防事業参加者の3割以上に「知り合いの数」「会話の機会」「友人と会う機会(週1回以上)」の増加が見られた
- PHRシステムが行うフィードバックにより、92%の参加者が事業への継続参加を希望
- 神戸市全体に展開した場合年間4億円の介護給付費抑制効果があると試算
介護予防にICTを導入することによって要介護の人を減らし、介護給付費を抑えた好事例だと言えるでしょう。
参考:総務省ICT地域活性化ポータル「次世代医療・介護・健康ICT基盤高度化事業」
介護の現場における今後のICT導入の課題
2021年に公益財団法人介護労働安定センターが発表した「令和3年度介護労働実態調査」で8,742件の介護サービス事業所を対象に、今後のICT導入の課題についてたずねた所、次のような結果が出ました。
ICT機器の導入や利用についての課題・問題(複数回答) | 割合 |
導入コストが高い | 53.8% |
技術的に使いこなせるか心配である | 34.5% |
どのような介護ロボットやICT機器・介護ソフトがあるかわからない | 19.4% |
投資に見合うだけの効果がない(事業規模から考えて必要ない) | 18.8% |
誤作動の不安がある | 14.0% |
清掃や消耗品管理などの維持管理が大変である | 10.2% |
介護現場の実態に適う介護ロボットやICT機器がない、現場の役に立つものがない | 6.4% |
ケアに介護ロボットを活用することに違和感を覚える | 4.0% |
その他 | 1.5% |
課題・問題は特にない | 9.7% |
無回答 | 17.9% |
介護の現場は命を預かる現場でもあるため、技術的に使いこなせなかった場合や誤作動への不安がICT導入への課題として挙がるのはうなずける結果だと言えます。
今後も介護の現場で働く人たちにとってわかりやすい情報提供や、細やかな導入サポートを続けていくことが更なる介護のICT化につながるでしょう。
参考:公益財団法人介護労働安定センター「令和3年度介護労働実態調査結果について」
まとめ
介護の現場ではよりよい介護サービスの提供と効率化を目的にICT導入が少しずつ進められており、介護職員が本来の仕事である介護サービスに集中できる環境を整えることが、利用者のQOL(生活の質)向上につながるでしょう。
この記事で採り上げたさまざまな事例を参考にして、ぜひ積極的にICT導入を進めてみてください。