AIをヘルスケアに活用するには?課題から導入事例まで詳しくご紹介

AIをヘルスケアに活用するには?課題から導入事例まで詳しくご紹介 TIPS

医療や介護の業界でも少しずつAIが身近なものになりつつあるのはわかるけれど、現状導入してよいのかどうかやどんな課題があるのかよくわからず悩んでいる人はいませんか?

この記事では、医療や介護の現場でAIをヘルスケアに活用するにあたっての課題から導入事例まで詳しく解説します。

AIとヘルスケアの定義

AIが人間の手に触れて健康状態を確認しようとするイメージ

AIをヘルスケアにどう活用するのかを考える前に、AIとヘルスケアの定義について知っておきましょう。

AIとは「Artificial Intelligence」の頭文字を取った言葉で「人工知能」と訳され、自ら学ぶのが特徴的ですが明確な定義はありません。

一方ヘルスケアとは、2015年に公益財団法人日本ヘルスケア協会により「自らの『生きる力』を引き上げ、病気や心身の不調からの『自由』を実現するために、各産業が横断的にその実現に向け支援し、新しい価値を創造すること、またはそのための諸活動をいう」と定義づけられています。

ヘルスケアは関わる分野が広く定義が捉えにくいと感じる人もいるかもしれませんが、公益財団法人日本ヘルスケア協会では想定されるヘルスケア関連産業分野を次のように整理しています。

分野区分 ヘルスケア関連分野
医療 1.医療
2.医薬品
3.漢方
4.補完・代替医療
5.その他
健康 6.医療機器・用具、福祉用具
7.美容・理容・浴場
8.栄養
9.運動
10.健康管理
11.情報通信(ICTなど)
12.在宅介護・高齢者対応
13.その他
生活 14.趣味・カルチャー(製造)
15.ペットケア
16.旅行
17.休養
18.食事
19.エネルギー
20.自動車
21.宅配
22.住宅・建築
23.小売・卸売
24.金融・保険・法務
25.生涯学習・医療教育
26.安心・安全・見守り
27.労働
28.その他の製造
29.その他

これらのことから、ヘルスケアには医療・介護分野以外にも関連する産業分野が幅広く存在するため、AIも多岐に渡る場面で活用できるのがわかります。

参考:公益財団法人日本ヘルスケア協会「ヘルスケアの定義」

医療や介護におけるAI活用の現状

医療分野でのAI活用

医療や介護におけるAI活用については、2017年6月27日に厚生労働省のホームページに掲載された「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会報告書」の中でAI開発を進めるべき重点領域として次の6つが選定されました。

重点領域の種類 選定された背景
ゲノム医療 ・がんや難病の分野で遺伝子変異に基づく診療が実用化されつつあるため

・技術の発展でゲノム解析にかかるコストが低下している

・AIでゲノムの変異箇所を短時間で発見したり包括的にデータ解析したりできる

画像診断支援 ・診断系医療機器の輸出入は1,000億円以上の黒字である

・ディープラーニング(AIを用いたより深い機械学習)との相性が良くそれを付加価値にできる

・疾患名と予後の情報を付加した医療画像データをディープラーニングに学習させれば予後をある程度予想できるようになる

診断・治療支援(検査・疾病管理・疾病予防を含む) ・医師は日常業務の負担が大きく1年に120万件にものぼる新規発表論文を全て読むのは難しい

・診療データをAIに蓄積すれば診療の精度が向上する

・診断・治療支援を行うAIを電子カルテに連結すれば疾病候補の提示、標準治療の提案、避けた方がよい薬剤への警告などが行える

医薬品開発 ・日本は世界でも数少ない新薬創出能力を持つ国である

・医薬品開発には長い年月がかかるなどさまざまな課題があるがその解決にAIが役立つ

介護・認知症 ・高齢者のQOL(生活の質)向上や介護者負担の軽減を目的に介護ロボットの開発が進められている

・介護ロボットにAI技術を付加することでさらにQOL向上や介護者負担の軽減につながる

・認知症患者の増加が見込まれるが診断から介護までAI活用が期待される

手術支援 ・治療の中心が手術である病気が多い

・外科医への負担が大きいためその軽減のためAI活用が求められる

重点領域について取り組みを続けた結果、例えば介護・認知症の領域においては2023年4月現在、「介護ロボットポータルサイト」において移乗サポートロボット、見守りセンサーなど多岐に渡る介護ロボットの導入事例動画が公開されています。

参考:厚生労働省「保険医療分野におけるAI活用推進懇談会」

参考:介護ロボットポータルサイト「導入事例動画INDEX」

医療や介護でAIを活用するメリットとデメリット

AIでバイタルサインをチェックする

医療や介護でAIを活用するメリットとデメリットは次の通りです。

分野 メリット デメリット
医療 ・事務作業を効率化できる

・コスト削減ができる

・精度の高い診断ができるようになる

・医師、看護師の負担が軽減できる

・医療ミスを事前に予防できる

・蓄積した医療データを有効活用できる

・AIが学習していない病気には対応できない

・責任の所在があいまいになる

・医師がAIに依存する可能性がある

・AIの誤作動やバグによる医療ミスの可能性がある

介護 ・介護スタッフの負担軽減

・介護の質の向上

・利用者やその家族の満足度向上

・介護者と利用者が程よい距離感を保てる

・人とAIがどのように安全に協業するかを考える必要がある

・導入コストがかかる

・設置スペースが必要になる

医療や介護の現場でAIを活用しそのメリットを享受するためには、全てをAI任せにするのではなく人とAIが行う仕事の切り分けを適切に行う必要があるのがわかります。

医療や介護におけるAI活用事例

白衣を着た医療スタッフがタブレット端末を操作しAIにデータを蓄積する

医療と介護におけるAI活用事例を1つずつご紹介します。

対話型AI HAL3

クリスタルメソッド株式会社の対話型AI「HAL3」はVTuberのような見た目の女性が画面に表示され、対話をしながら次のようなことをしてくれます。

項目 概要
勤怠管理 ・カメラに顔を映すと出勤、退勤、休憩の情報を自動で更新し管理する
受付 ・人を認識すると面会・宅配・FAQの選択肢を提示し人を呼び出したり、訪問者に必要情報を提示したりできる
表情からの感情認識 ・カメラに顔を映すと感情を認識する
声からの感情認識 ・マイクの声から感情を認識する
快・不快判定 ・カメラに物体を映すと快・不快・中立のどれかを判定する
よくある質問 ・よく聞かれる質問に対し事前に登録された答えを伝える
Wiki検索 ・質問した単語や用語をWikipediaで検索し概要を読み上げる
雑談(フリートーク) ・さまざまな話題で雑談する
物体認識 ・カメラに映った物体を分析し何かを伝える
シーン推定 ・カメラに映ったシーンを分析しどのような場面かを伝える
議事メモ取得 ・会議中の会話をリアルタイムで時系列に記録する
朗読 ・登録した文章を読み上げる
翻訳 ・日本語、英語、中国語の3か国語間の翻訳を行う

対話型AI「HAL3」を医療の現場で使用するメリットは次の4つです。

  • 患者の異変に気付きやすくなる
  • 患者個人の状態に合った対応ができる
  • 感情認識や快・不快判定などで患者のメンタルの状態が把握できる
  • 治療者側のミスが指摘できる

患者とコミュニケーションを図りながら、より適切な治療に結び付けていけるのが対話型AI「HAL3」を導入する大きなメリットだと言えるでしょう。 

参考:クリスタルメソッド株式会社「対話型AI HAL3」

eMamo

株式会社リンクジャパンの「eMamo」はAIとIoT技術で高齢者ヘルスケアに必要な商品やサービスを一本化できるプラットフォームです。

「eMamo」の主な機能は次の通りです。

  • スマートナースコール
  • 心拍、呼吸、離床と在床を把握&通知
  • 体温を24時間継続確認&通知
  • 安否確認
  • 室内温度、湿度を把握&通知
  • エアコンのリモート操作&温度センサーによる自動運転
  • アプリ間通話、どこでもインカム
  • カーテンを声、アプリ、タイマーで操作
  • 声による家電の操作
  • 360度カメラで状況確認、通知、データ保存

「eMamo」はWiFi環境さえあれば即日利用できる手軽さと、直感的な操作ができるUIデザインから次のような介護の現場で活用されています。

  • 介護施設
  • 在宅介護
  • シニア向けマンション
  • 遠くに住む家族の見守り

介護の現場における課題をAI導入で解決できないかと悩んでいる人は、ぜひ次のページもごらんください。

株式会社リンクジャパン「eMamo(イーマモ)」

医療や介護におけるAI活用の課題

脳波のデータをAIに蓄積する

今後医療や介護においてAIを活用する上での課題には、どのようなことがあるのでしょうか。

3つご紹介します。

AIに対する現場の知識不足

AIの技術は進化し続けているため、医療や介護の現場で働く人が都度最新の知識を持って運用にあたる必要がありますが、まだ「AIは全てを正確に処理してくれるもの」といった誤解も少なくありません。

このような誤解が医療ミスや介護現場での事故を引き起こす可能性があるため、医学生の基礎教育にAI科目を取り入れる議論などが行われています。

AIの正確性をどう検証するか

AIの判断や提案の正確性を担保するためには、その判断や提案の根拠を知る必要がありますが、現在のAIではこの部分がブラックボックス化されています。

AIが正確な判断ができなかった場合、医師、看護師、介護士などがその責任を負うのか、AIのメーカーに責任はないのかといった課題を解決につなげるため、現在説明可能なAI(XAI=根拠や判断プロセスを見える化したAI)の開発が進められているのです。

AIの知識の偏りをどう解消するか

AIはたくさんのデータを学習するほど望ましい結果を生み出すと考えられがちです。

しかしアリゾナ州立大学のヴィサール・ベリシャ准教授のチームは、録音された患者の会話にAIのアルゴリズムを適用してアルツハイマー病や認知障害の兆候を検知する研究で、調査対象が増えるほど精度が落ちることを発見しました。

このことから、現在AIに広い範囲でバランスの良いデータを覚えさせるためにはどうすればよいのかが議論されているのです。

まとめ

AIに蓄積されたデータをタブレット端末で確認する医師

AIのヘルスケアへの活用については医療や介護における仕事の効率化、精度の向上、負荷軽減などさまざまなメリットがあるため、現状研究が進められている段階だと言えるでしょう。

この記事も参考にして、自分の働く現場の課題を解決できるAIを検討し、人とAIが行う仕事の切り分けを適切に行ってから慎重な導入を心がけてみてください。