親に認知症の兆候があったため要介護認定を受けたけれど、どこかへ外出したまま行方不明にならないかと心配な人はいませんか?
この記事では、認知症患者が行方不明になる原因から対応方法まで詳しく解説します。
認知症の行方不明者の現状
2022年に警察庁が発表した「令和4年中における行方不明者の状況」によると、行方不明者の数の推移は次の通りでした。
画像参照元:警察庁「令和4年中における行方不明者の状況 1行方不明者数の推移」
行方不明者の全体数は増減を繰り返しながら横ばいを続けているにもかかわらず、認知症が原因の行方不明者の数は増え続けているのがわかります。
このことから、何らかの対策を講じなければ今後も認知症が原因の行方不明者が増加する可能性は高いと言えるでしょう。
認知症患者が行方不明になる原因とは?
認知症の患者が1人で外出したり歩き回ったりすることを、今までは目的もなく歩き回るという意味の「徘徊」と呼んできましたが、認知症に関する研究が進み、当事者の声にも耳を傾けるようになってから認知症患者はそれぞれ理由があって外出していることがわかってきました。
このことから、近年「徘徊」という言葉は現状に合わないとして使うのをやめる地方自治体が増えてきています。
認知症患者はそれぞれ理由があって外出するものの、徘徊と誤解されたり行方不明になってしまったりする原因を5つご紹介します。
知識・情報を記憶できない
認知症患者が外出した時行方不明になりやすいのは、知識や情報を記憶できないためです。
例えば家を出たらすぐに行き先を忘れたり、公共交通機関を利用しても乗車中に降りる駅がわからなくなってしまったりします。
最初は目的があり行き先を決めて外出したとしても、記憶障がいでそのことを覚えておけないため認知症患者は行方不明になってしまうのです。
自分の思いとは異なる行動をしてしまう
認知症患者は自分の考えや意図と異なる行動を取ってしまう場合があります。
例えばバスに乗っていて降りるバス停の手前で降車ボタンを押そうとするものの、前もって「手を動かそう」と強く意識しないとボタンを押せなくなったり、意識しすぎて手が動かなくなったりします。
目的地は覚えていても、降りるはずのバス停で降りられないまま通り過ぎてしまうので、行方不明になりやすくなるのです。
完了済みの経験や事象を現在進行形のことと感じる
認知症患者は完了済みの経験や事象を現在進行形のことと感じる場合があります。
例えば何年も前に会社を退職しているのに今でも会社で働いていると思い込み、当時の出勤時間になると準備して家を出てしまいます。
また出勤のため会社に向かっているうちに外出した目的を忘れてしまうため、行方不明になりやすいのです。
視界が狭くなる
認知症患者は視界が狭くなったり、限定されたりする場合があります。
例えば駅の中には出口や方向を示す案内板がたくさん設置されていますが、視界が狭かったり限定されたりするとそれを見つけることができなくなるため、どこに行けば目的地にたどりつけるのかがわからなくなってしまうのです。
方向感覚が失われる
認知症患者は方向感覚が失われ、位置の把握に必要なランドマークが記憶できない場合があります。
例えば自分の家や職場であっても来た方向がわからなくなったり、目印を覚えていられなかったりするため自分の部屋や席がどこなのかがわからず迷ってしまうのです。
認知症患者が行方不明になった時の警察の対応
認知症患者が家に帰ってこない場合、警察はどのような対応をしているのでしょうか。
警察庁のホームページでは、各都道府県警察で行方不明者の情報を掲載しているページのリンクを貼って一覧ページを作り、情報提供を広く呼び掛けています。
各都道府県警察のホームページでは、探している人の名前や行方不明になった時の年齢、画像、認知症がある場合はその情報や担当する警察署の連絡先なども公開しているためです。
各地方自治体では、身元不明の認知症高齢者を保護した場合、その人の情報をホームページで公開し、掲載した情報への照会や問い合わせへの対応を行っています。
また厚生労働省では広く捜索活動ができるようにするため、各地方自治体が情報公開したページへのリンクを一覧で公開しているのです。
例えば東京都の場合、東京都福祉局とうきょう認知症ナビの「認知症高齢者等の行方不明・身元不明について」というページにリンクが貼られています。
とうきょう認知症ナビのホームページでは認知症の家族が行方不明になった場合、身元不明の認知症患者を発見・保護した場合について次のように対応するよう呼び掛けています。
項目 | 対応方法 |
認知症の家族が行方不明になった場合 | ・警察に届ける
・本人が住んでいる市町村や地域包括支援センターに届ける |
身元不明の認知症患者を発見・保護した場合 | ・警察に連絡する |
認知症患者が行方不明になった場合、警察や地方自治体で情報が共有され、連携して保護や早めの身元確認に取り組んでいるのがわかります。
参考:厚生労働省「行方のわからない認知症高齢者等をお探しの方へ」
参考:東京都福祉局 とうきょう認知症ナビ「認知症高齢者等の行方不明・身元不明について」
認知症当事者が行方不明防止のため外出時に受けたいサポートとは?
認知症当事者が、行方不明になるのを防止するため外出時に受けたいサポートとはどのようなものなのでしょうか。
近年認知症の研究が進み、当事者の声をサポートに取り入れようという動きが出てきています。
例えば「認知症当事者ナレッジライブラリー」では、認知症の当事者から生活課題と背景にある心身機能のトラブル、これとつきあう暮らしの知恵を募り、ホームページで公開しています。
ホームページでは「ひと」「生活課題」「心身機能障がい」からほしいサポートを調べられるようになっています。認知症患者が行方不明になるのを防止するのにほしいサポートは、「生活課題」の「移(移動の意味)」を見ると、解決策が表示されるのです。
具体例をいくつかご紹介します。
生活課題 | 知恵 |
畑で野菜を作っていたが行って管理をするのが困難となった | 自宅のプランターで野菜を作るようにした |
近所のデイサービスまで歩いて通っていたが目的地がわからずたどりつけない | デイサービスの送迎車を使うようにした |
一人で通院するのが難しくなった | ・ガイドヘルパーを利用するようにした ・ヘルプカードを携帯し周囲の人にサポートを依頼した |
初めての場所に行くのが難しい | ・地図アプリの検索結果を画像保存した ・移動中に現在地とともに検索結果を再確認した ・乗換や降車の予定時間にアラームをセット した |
道に迷う | 配偶者に付き添ってもらいながら買い物、ボランティアなどなるべく外出した |
電車に乗ると乗り越してしまう | ヘルプカードを持参して周囲の人にサポートを依頼する |
車の運転が難しくなった | 免許の返納を検討した |
1人で遠出ができなくなった | デイサービスの仲間と一緒に遠出するようになった |
自転車に乗ってきたかどうか、乗ってきたとしても置き場所を忘れる | 自転車を駐車したら番号や周囲の様子を携帯にメモしたり、写真撮影をしたりしてからその場を離れた |
電車に乗って他のことをすると降りられない | 本やスマホを見るのは避けるようにした |
出かける時に家を出る時間や公共交通機関の時間を忘れる | リビングにコルクボードを設置し時間を大きく書いておいた |
どれも介護士や家族が全ての外出を見守るのではなく、部分的なサポートを受けたり、自分で解決方法を見つけたりしながら1人でも外出したいという意向が感じられるのが特徴的だと言えるでしょう。
具体例の中で何度か記載があったヘルプカードとは、周囲の人に援助や配慮が必要なことを知らせるためのカードで、次のような内容が記載されています。
- 名前、住所、性別、生年月日、血液型
- 障がいや病気の名称と特徴
- 飲んでいる薬
- アレルギー
- かかりつけ医療機関
- 緊急連絡先
ヘルプカードを持参していれば、仮に行方不明になったとしても保護や家族に連絡するために必要な情報は網羅されているので、発見される可能性が上がるでしょう。
ヘルプカードを希望する人は、認知症患者が住んでいる市区町村に問い合わせをしてみてください。
認知症患者の行方不明防止をサポートするツール「eMamo」
認知症患者の行方不明を防止するツールに「eMamo」があります。
eMamoはIoTを活用したセンシング技術(センサーを用いてさまざまな情報を計測・数値化する技術)で離れた場所からでも認知症患者のいる居室の様子がわかるため、安否確認に活用できるというわけです。
認知症患者の行方不明を防止し、適切なケアをしたい施設の方におすすめです。
まとめ
認知症の行方不明者は増加傾向にありますが、警察庁や厚生労働省などが連携した情報共有、認知症当事者がしてほしいサポートの周知、IoT技術の進歩などにより少しずつ対策が進んできています。
この記事も参考にして、ぜひ家族が行方不明にならないよういろいろな工夫をしてみてください。