介護の現場で働いてくれる人を探して定期的に募集をかけているけれど、思うように採用活動が進まず頭を抱えている人はいませんか?
この記事では介護業界における人手不足の原因から解決策まで詳しく解説します。
介護業界における人手不足の現状
2021年に厚生労働省が発表した「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」において、第8期介護保険事業計画の介護サービス見込み量などに基づき、都道府県が推計した介護職員の必要数を集計した結果は次のようになりました。
2023年度 | 2025年度 | 2040年度 | |
介護職員の必要数 | 233万人 | 243万人 | 280万人 |
一方2021年に厚生労働省が発表した「令和3年介護サービス施設・事業所調査の概況」によると介護職員の総数は188万863人だったため、2023年の必要数を満たすためにはまだ介護職員が44万9千人程度不足していることになります。
これらのデータから、介護業界における人手不足は早急に解決策を講じなければならない課題であることがわかります。
参考:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
参考:厚生労働省「令和3年介護サービス施設・事業所調査の概況」
介護業界における人手不足の原因
介護業界における人手不足は何が原因で引き起こされているのでしょうか。
3つご紹介します。
給与が低いイメージが強い
2022年に厚生労働省が発表した「令和4年賃金構造基本統計調査」によると一般労働者の平均年収は311万8千円でした。
一方介護保険制度において介護職員の処遇改善のために2018年から開始された介護職員処遇改善加算、2019年から開始された介護職員等特定処遇改善加算、2022年から開始された介護職員等ベースアップ等支援加算の2022年の取得状況は次の通りです。
加算の種類 | 介護職員処遇改善加算 | 介護職員等特定処遇改善加算 | 介護職員等ベースアップ等支援加算 |
取得状況 | 93.8% | 75.9% | 85.4% |
これにより介護職員等特定処遇改善加算を取得している事業所における介護職員の平均給与は32万3,190円となったため、ボーナスを含めなくても平均年収が387万8,280円です。
現在では介護職員の平均年収は一般労働者の平均年収と比較すると76万円程度多いため、給与については改善されたのですが、まだ世間一般には介護の現場で働く人は給与が低いというイメージがあると言えるでしょう。
参考:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
採用が困難
厚生労働省Jobtagが公表している2021年度の施設介護員の有効求人倍率は3.05倍で、常に同業他社と人材を取り合う状態が続いています。
また産業別労働者過不足判断DIでも医療・福祉業界の正社員は60越えと高い数値のため、労働者がかなり不足しており採用が困難な状態だと言えるでしょう。
人事評価で給与に差が出にくい
介護業界のビジネスモデルでは、職員1人1人ががんばったとしても業績が大きく向上することはないため、人事評価で給与に差をつけにくいという特徴があります。
人事評価制度が整っていない場合、例えば誰かに何かの役職がついても本人も周囲もあまり納得感がないまま稼働を開始してしまうため、チームがまとまらないといった弊害を生むこととなるでしょう。
介護業界における人手不足の解決策
介護業界における人手不足には、どのような解決策があるのでしょうか。
5つご紹介します。
ICTやAIの活用
厚生労働省では介護業界における人手不足の解決策として、ICTやAIの活用を推奨しています。
介護の現場でICTやAIを導入すると人手不足を次のような形で解決できます。
- AIにデータを蓄積しそれに基づいた介護が可能となるため情報のやり取りにかかっていた時間を削減できる
- 文書作成などはICTを活用して効率化し介護サービスの提供に集中できる
- 働きやすい環境となるため介護職員を採用しやすくなる
介護の現場で導入しやすいAI×IoTサービスとして株式会社リンクジャパンの「eMamo」がありますが、介護施設で採用すると次のようなメリットがあります。
- 移動距離や訪室回数が減り業務効率を改善できる
- 見える化で精神的な負担が軽減し施設の離職率を下げられる
- デジタルネイティブ世代に訴求しやすくなり若手の採用につなげられる
介護業界において人手不足が解決できず困っている方は、ぜひ次のページもごらんください。
介護ロボットの活用
厚生労働省では介護業界における人手不足の解決策として、介護ロボットの活用も推奨しています。
ロボットとは情報を感知し、判断し、動作するものを指しますが、介護ロボットとはその中でもロボット技術が応用され利用者の自立支援や介護者の負担軽減に役立つもののことです。
厚生労働省は、経済産業省とともに「ロボット技術の介護利用における重点分野」を次の6分野13項目定め、その開発・導入を支援しています。
分野 | 項目 | 概要 |
移乗支援 | ・装着 | ・ロボット技術を用いて介護者のパワーアシストを行う装着型の機器 |
・非装着 | ・ロボット技術を用いて介護者のパワーアシストを行う非装着型の機器 | |
移動支援 | ・屋外 | ・高齢者などの外出をサポートし、荷物等を安全に運搬できるロボット技術を用いた歩行支援機器 |
・屋内 | ・高齢者などの屋内移動や立つ・座るなどの動作をサポートし、特にトイレへの往復やトイレ内での姿勢保持を支援するロボット技術を用いた歩行支援機器 | |
・装着 | ・高齢者などの外出をサポートし、 転倒予防や歩行等を補助するロボット技術を用いた装着型の移動支援機器 | |
排泄支援 | ・排泄物処理 | ・排泄物の処理にロボット技術を用いた設置位置の調節ができるトイレ |
・トイレ誘導 | ・ロボット技術を用いて排泄を予測し、的確なタイミングでトイレへ誘導する機器 | |
・動作支援 | ・ロボット技術を用いてトイレ内での下着衣の着脱など、排泄の一連の動作を支援する機器 | |
見守り・コミュニケーション | ・施設 | ・介護施設において使用する、センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器のプラットフォーム |
・在宅 | ・在宅介護において使用する、転倒検知センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器のプラットフォーム | |
・生活支援 | ・高齢者などとのコミュニケーションにロボット技術を用いた生活支援機器 | |
入浴支援 | ― | ・ロボット技術を用いて浴槽に出入りする時の一連の動作を支援する機器 |
介護業務支援 | ― | ・ロボット技術を用いて見守り、移動支援、排泄支援をはじめとする介護業務に伴う情報を収集・蓄積し、それを基に、高齢者などの必要な支援に活用できる機器 |
介護ロボットの開発や実用化がさらに進めば介護ロボットと人間の分業が進み、効率良く介護を行うことができるようになるでしょう。
外国人介護人材の受け入れ
厚生労働省では介護業界における人手不足の解決策として、外国人介護人材の受け入れにも取り組んでいます。
外国人介護人材を受け入れる仕組みには、次の4種類の制度があります。
制度の名称 | 概要 |
EPA(経済連携協定) | ・インドネシア・フィリピン・ベトナムからの看護師・介護福祉士の受け入れ制度
・2019年8月末時点で累計受け入れ人数が6,400名を超える |
在留資格「介護」 | ・日本の介護福祉士養成施設を卒業して介護福祉士国家資格を取得した留学生に対して、国内で介護福祉士として介護または介護の指導を行う業務に就けるようにする在留資格を2017年から新設 |
介護職種の技能実習制度 | ・2017年に技能実習法が施行されたのに合わせて外国人技能実習制度の対象職種に介護職種が追加された |
介護分野における特定技能外国人 | ・2019年に一定の専門性・技能を有する外国人材を受け入れる制度として在留資格「特定技能」が新設された |
2021年に公益財団法人介護労働安定センターが発表した「令和3年度介護労働実態調査」の結果では外国人労働者を受け入れている事業所は6.2%でしたが、「新たに活用する予定がある」とした事業所も11.7%あることがわかったのです。
今後少しずつ外国人労働者の受け入れが進めば、人手不足の解消にも一役買うのではないでしょうか。
参考:公益財団法人介護労働安定センター「令和3年度介護労働実態調査について」
人事評価制度を作る
介護業界では一人一人の業務への取り組みが売上に直結しないため、適切な人事評価制度を設けるのが難しいとされています。
しかし人事評価制度がなければ離職率が上がってしまい、人手不足が解消されないことから人事評価制度の導入や改善に取り組む介護事業所も増えてきています。
例えば職員の育成を目的とし、スキル向上のための目標を設定して達成したら評価されるようにするなど、売上や業績と直接結びつかない人事評価制度にすると介護業界のビジネスモデルに合った制度にすることができます。
働き方改革に積極的に取り組む
2019年4月より働き方改革が始まりましたが、介護業界でも人手不足解消のため少しずつ積極的に取り組む事業所が増えてきています。
介護業界における働き方改革を推進するには、次のような施策が有効です。
- 勤務時間内に仕事を終える仕組み作りに取り組む
- 多様な勤務形態を導入して人材確保をしやすくする
- 業務改善を定期的に行うなど習慣化する
介護職員が働きやすい環境を整えることで離職率が下がるため、人手不足も解消しやすくなるでしょう。
まとめ
介護業界における人手不足は早急に解決策を講じなければならない課題ではありますが、ICTやAI、介護ロボットの活用、外国人介護人材の受け入れ、働き方改革などさまざまな施策を現場が導入し、対応をしている段階だと言えるでしょう。
この記事も参考にし、ぜひ介護業界における人手不足とその解決策について理解を深めてみてください。